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天狗のけんかで禿山〜天狗参上

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天狗伝説

 天狗は,天狗倒し(山中で大木を切り倒す音がするが行ってみると何事もない),天狗笑い(山中でおおぜいの人の声や高笑いする声が聞こえる),天狗つぶて(大小の石がどこからともなくバラバラと飛んでくる),天狗ゆすり(夜,山小屋などがゆさゆさと揺れる),天狗火,天狗の太鼓などさまざまな怪異を働くが,こうした怪音,怪火の現象は山の神などの神意のあらわれと信じられ,山小屋の向きを変えたり,山の神をまつって仕事を休んだりした。


天狗のけんかで禿山

 昔、神野山(こうのざん)に鼻高天狗の大将が住んでいました。この神野山は、天狗が住んでいる杉の木が一本生えているだけで、もともと「はげ山」だったそうです。

 一方、伊賀天狗の大将が住んでいる伊賀の国(現在の三重県)にある青葉山は、緑が豊かで、たくさんの草木が生い茂り、その間に奇岩もたくさんあって「庭園」のようだったそうです。

 ところが、ある日、神野山の鼻高天狗の大将は、日頃から仲の悪かった青葉山の伊賀天狗の大将から喧嘩を挑まれたのでした。

 そもそもの喧嘩のもとは、神野山の麓の山に住む、名を他惣治という元気な男の子のとりあいです。他惣治は、毎日、神野山へ登っては、岩や木をたたきわって遊んでいたたいそう豪快な男の子で、その雄たけびは伊賀の山々まで聞こえるほどだったといいます。

 そこで、何とか自分の弟子として仕込みたいと考えた伊賀天狗は、遊んでいた他惣治に声をかけた。
 「おーい、そこの子供よ。おれは伊賀天狗じゃが、弟子になる気はないかえ。」
 さすがの天狗だけに、そのあまりに大きな声は、伊賀から神野までとどろき響いたわけで、これを聞いてびっくりしたのは、当の神野山に住む神野山天狗でした。

 「こらあ、お前は何を言うんじゃ。他惣治はわしが前から目をつけてた子じゃ。お前には渡すもんか。」と叫びました。

 伊賀天狗も「やかましい。先に言ったのはわしじゃ。早いもの勝ちじゃろうが」と言い返します。

 とうとう言い争いでは、すまず、物の投げ合いとなったわけです。

 神野山天狗は、谷川から運び上げた八畳敷の巨岩を頭上にさし上げて、相手方をにらみつけました。
 それを見た青葉山天狗とその子分たちは、牛ほどもある石弾をつぎつぎと神野山に向かって投げつけ、ついには石を投げ尽くしてしまった。
 そこで、なんと生えている大木を次々となぎ倒しては、これを投げつけ始めたのです。

 一方、神野山天狗は、最後に飛んできた一番大きな石を拾うと、満身の力を込めて青葉山へ投げ返したのです。
 すると、青葉山天狗の大将の右ひじに見事命中し、伊賀天狗は降参したのでした。

 勝った神野山天狗は、他惣治に「さあ、他惣治。わしの勝ちじゃ。今日からわしがお前に天狗の術を教えてやろうと思うが、どうか。」に聞くと「はい、頼みます。」

 こうして他惣治は神野山天狗の弟子となりました。もともと何に対しても熱心な他惣治は、見る見る間に「天狗とび切りの術」を覚えて、村へと帰っていったということです。

 それにしても、けんかの後の青葉山は、もとの草木や岩がなくなり、見る影もない「はげ山」となっていました、一方、神野山は飛んできた岩で鍋倉渓ができて、山の頂上に至るまで草木が生い茂るようになりました。
 そして、九十八夜のころになると、つつじの花が、山頂に咲きみだれるようになったそうです。
 神野山の古寺・神野寺には、天狗が登り降りしたという”天狗杉”が現在も残っています。
(奈良県山辺郡山添村)

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