鬼 その異形なるもの

甲州街道訪ね歩き

鬼の正体


 鬼とは、人間の心や社会によって変化する存在であり、その捉え方や姿形は、地域や時代によって異なるバリエーションがあります。
 鬼については、古代中国から日本に伝わった漢字や物語、仏教の教え、日本の歴史や伝説など、様々な要素が影響しています。
 鬼の正体について、その変遷や特徴を、考え方から以下のように整理してみました。

(1)古代中国の鬼

 鬼という概念は、古代中国から日本に伝わりました。
 中国では、鬼とは死者の霊魂そのものであり、姿形のないものとされました。鬼は、死んだ人の未練や恨みによって、生きている人に害をなすことがありました。特に、未婚で死んだ女性の鬼は、夜な夜な男性を襲って生気を吸い取るとされました。
 中国の古代からの民間伝承をまとめた「聊斎志異」には、このような鬼の物語が多く見られます。
 鬼は、人間の死や苦しみの象徴であるという考え方です。

(2)日本の古代の鬼

 鬼という漢字が日本に伝わると、死に対する恐怖から鬼は恐ろしくて怖いものと捉えられていきました。
 日本の歴史書「日本書紀」には、鬼とは朝鮮半島や中国から来た者や、日本の山岳地帯に住む者とされました。
 また、鬼とは「大人」や「力強い者」の意味もあり、鬼嫁や○○の鬼などの言葉もありました。
 鬼は、人間の敵や異物であるという考え方です。

(3)仏教の鬼

 仏教における考え方も、鬼の捉え方に影響しています。
 仏教では、鬼とは餓鬼道や地獄道に堕ちた者とされ、苦しみや悪行を表すものとされました。
 餓鬼道には、絶えず飢えに苦しみ、食べ物を口に近づけるとすべて炎となって口に入れられず、決して満たされることがない鬼がいました。
 地獄道には、閻魔王のもとで死者を責めたてる獄卒という鬼がいました。
 また、戦闘を好む阿修羅は鬼神とされました。
 鬼は、人間の罪や苦悩の象徴であるという考え方です。

(4)平安時代の鬼

 平安時代になると、鬼はもっと不気味で曰くありげになりました。
 京都の都で若者や姫君たちの行方不明事件が発生し、その犯人が大江山に住む酒呑童子という鬼であるという伝説が生まれました。
 酒呑童子は、身長が6メートルもあるという大鬼で、天皇の命を受けた源頼光らによって討伐されました。
 また、百鬼夜行という現象が起こり、鬼たちが夜な夜な京都の街をうろつくという恐怖が広まりました。
 鬼は、人間の恐怖や悪意の象徴であるという考え方です。

(5)鎌倉時代以降の鬼

 鎌倉時代以降になると、鬼はバリエーションが増え、キャラクター化していきました。鬼は、人間を超えた力や能力を持つ者であり、人間の禍福を支配する存在であるという考え方が強まりました。桃太郎が犬・猿・雉を従えて鬼ヶ島に住む鬼を退治する物語や、戸隠山に住む紅葉という名の鬼女を平維茂が退治する能の演目「紅葉狩」などが生まれました。
 また、鬼切安綱という名刀があり、鬼の腕を切ったという伝説がありました。
 鬼は、人間の超人や英雄であるという考え方です。

 鬼の正体は、人間の心や社会によって変化するものであると言えるかもしれません。鬼の正体については、それぞれの伝承や物語によって異なります。
 具体的な伝承や文脈においてどのような鬼が語られているかによって、鬼の正体も異なる可能性があります。