鬼 その異形なるもの

甲州街道訪ね歩き

鬼の正体


 日本の歴史や社会において、朝廷や幕府に反抗した者や、法を犯した者を「鬼」と呼ぶことがあります。
 これは、人間の社会や秩序に反する者を鬼として非難したことを示しています。盗賊や反逆者としての鬼は、権力者や支配者にとっての敵であり、一般の人々にとっては恐怖や憎悪の対象であると同時に、自由や正義の象徴としても見られることがあります。
 このような鬼のイメージは、日本の歴史の中でさまざまな時代や場面で現れてきました。

 まず、古代における鬼の例としては、佐渡島に渡ってきた蝦夷や満州の人々を鬼と呼んだという記述があります。
 これは、日本とは異なる言語や風俗を持つ人々を鬼として認識したことを示しています。
 このような鬼は、日本の律令国家の統治や文化にとっての外敵や異質な存在として描かれました。
 しかし、同時に、彼らは日本の文化や社会に影響を与えたり、交流や融和を図ったりすることもありました。
 例えば、蝦夷の中には、日本の律令制に従って朝貢したり、日本の文化を受容したりする者もいました。
 また、満州の人々は、日本の仏教や文化を伝えたり、日本の王朝と友好関係を築いたりする者もいました。
 このように、古代の鬼は、日本の国家や文化にとっての敵対者や異文化者としてだけでなく、友好者や同化者としても見られることがありました。

 次に、中世における鬼の例としては、朝廷や幕府に反抗した足利尊氏や南朝の武将などが鬼と呼ばれました。
 これは、日本の政治や秩序に反する者を鬼として非難したことを示しています。
 このような鬼は、日本の権力や支配にとっての反逆者や脅威として描かれました。
 しかし、同時に、彼らは日本の政治や秩序に改革や正義をもたらそうとした者としても見られました。
 例えば、足利尊氏は、鎌倉幕府を倒して建武の新政を支持した後、後醍醐天皇に背いて室町幕府を開きました。
 彼は、幕府の権威を脅かす存在として鬼として非難されましたが、一方で、幕府の専制や不正に対する抵抗の象徴としても見られました。
 また、南朝の武将は、後醍醐天皇の子孫である南朝の皇族を支持して、北朝の皇族と幕府に対抗しました。
 彼らは、幕府の権威を脅かす存在として鬼として非難されましたが、一方で、皇室の正統性や国家の統一を求める者としても見られました。
 このように、中世の鬼は、日本の権力や支配にとっての反逆者や脅威としてだけでなく、改革者や正義者としても見られることがありました。

 さらに、近世における鬼の例としては、幕府に反抗した土佐の坂本龍馬や長州の高杉晋作などが鬼と呼ばれました。
 これは、日本の体制や秩序に反する者を鬼として非難したことを示しています。
 このような鬼は、日本の閉鎖や停滞にとっての革命者や破壊者として描かれました。
 しかし、同時に、彼らは日本の開国や近代化にとっての先駆者や建設者としても見られました。
 例えば、坂本龍馬は、幕府の海軍を脱走して土佐勤王党に加わり、倒幕運動に参加しました。
 彼は、幕府の権威を脅かす存在として鬼として非難されましたが、一方で、幕府の閉鎖や不正に対する改革の象徴としても見られました。
 また、高杉晋作は、長州藩の藩政改革に尽力し、倒幕運動に参加しました。彼は、幕府の権威を脅かす存在として鬼として非難されましたが、一方で、幕府の専制や停滞に対する近代化の象徴としても見られました。
 このように、近世の鬼は、日本の体制や秩序にとっての革命者や破壊者としてだけでなく、先駆者や建設者としても見られることがありました。

 最後に、近代における鬼の例としては、法を犯した盗賊や山賊などが鬼と呼ばれました。これは、人間の法や秩序に反する者を鬼として非難したことを示しています。
 このような鬼は、人間の社会や安全にとっての犯罪者や暴力者として描かれました。しかし、同時に、彼らは人間の社会や安全にとっての義賊や英雄としても見られました。
 例えば、江戸時代末期に活躍した盗賊の石川五右衛門や、明治時代初期に活躍した山賊の石田権兵衛などが有名です。
 石川五右衛門は、江戸時代末期に活躍した盗賊で、鬼のような顔つきと鬼のような力を持ち、幕府の追手を何度も逃れたという。鬼平犯科帳などの時代小説や映画で描かれています。
 石田権兵衛は、明治時代初期に活躍した山賊で、鬼のような髪型と鬼のような声を持ち、明治政府の軍隊を何度も撃退したといいます。石田権兵衛伝などの伝記や小説で描かれています。
 彼らは、法や秩序に反する存在として鬼として非難されましたが、一方で、貧しい人々に施しをしたり、権力者に対抗したりすることで、義賊や英雄としても見られました。
 このように、近代の鬼は、人間の法や秩序にとっての犯罪者や暴力者としてだけでなく、義賊や英雄としても見られることがありました。

 以上のように、日本の歴史や社会において、朝廷や幕府に反抗した者や、法を犯した者を「鬼」と呼ぶことがあります。これは、人間の社会や秩序に反する者を鬼として非難したことを示しています。盗賊や反逆者としての鬼は、権力者や支配者にとっての敵であり、一般の人々にとっては恐怖や憎悪の対象であると同時に、自由や正義の象徴としても見られることがあります。