武田神社甲府・甲斐国

武田神社

　武田神社が建つこの場所は、信玄公の父、武田信虎が館を築いて以来、武田家三代にわたる約60年間、甲斐の国の政治、文化、軍事の中心地でした。
　信玄公は、この館で家督を相続し、信濃侵攻の指揮を執り、そして「人は城、人は石垣、人は堀」という哲学を育みました。
　彼は、強固な城郭ではなく、この質素な館を拠点としました。
　これは、物理的な防御よりも、家臣や領民との信頼関係こそが国を守る最大の力であるという、彼の思想を物語っています。
　現在も境内に残る堀や土塁は、当時の館の面影を色濃く残しており、訪れる人々に、信玄公がこの地でいかに過ごしていたかを想像させてくれます。

武田神社創建の歴史的背景
　武田神社は、戦国時代に創建されたわけではありません。武田家が滅亡して約330年後の大正時代に、人々の手によって建立されました。これには、いくつかの重要な歴史的背景があります。

　 １．武田家滅亡と「武田信仰」の継続
　天正10年（1582年）、織田・徳川連合軍の侵攻により、武田家は滅亡しました。
　しかし、信玄公が領民に残した治世の功績は、彼の死後も忘れられることはありませんでした。
　治水事業や公平な法律は、領民の生活を安定させ、信玄公は「神様」のように敬愛され続けました。
　江戸時代に入ると、甲斐を統治した徳川家も、信玄公の治水事業や金山経営のノウハウを継承し、彼の功績を称えました。

　２．明治時代の「顕彰運動」
　明治時代に入り、廃藩置県によって旧武士階級が解体されると、多くの士族が武士の精神的支柱を求めました。
　この中で、武田信玄のような偉大な武将を祀り、その功績を顕彰する運動が全国で起こりました。
　当時の皇太子殿下（後の大正天皇）が甲府に行啓された際、この運動はさらに加速し、遂に大正8年（1919年）、武田氏館跡に武田神社の創建が叶いました。
　これは、信玄公が、時代を超えて人々の心に深く刻まれる、偉大な存在であったことを物語っています。

武田神社に祀られる神：信玄公が神となった理由
　武田神社は、信玄公を「武田大神（たけだおおかみ）」として祀っています。
　信玄公が神格化されたのには、以下のようないくつかの理由が考えられます。

　１．「徳」による統治
　信玄公の治世は、単なる武力による支配ではなく、治水事業や法律の整備といった「徳」によるものでした。
　彼は、領民の生活を豊かにし、安心と秩序をもたらしました。
　そのため、領民は信玄公を救世主のように崇拝し、彼の死後もその功績を語り継ぎました。

　 ２．戦国最強の武将としての存在感
　信玄公は、戦国最強の武将として、敵に恐れられ、味方には深く敬愛されました。
　彼の圧倒的な武力と知略は、人々に「神」の力を感じさせました。
　三方ヶ原の戦いでの徳川家康との対決や、川中島での上杉謙信との攻防は、信玄公が「武神」として崇められるにふさわしい、劇的な物語を後世に残しました。

　 ３．「風林火山」という普遍的な哲学
　信玄公の代名詞である「風林火山」は、単なる軍略ではありませんでした。
　それは、人生を生き抜くための普遍的な哲学として、多くの人々に感銘を与えました。
　信玄公は、戦いを通じて、生きる上での大切な教えを私たちに示してくれました。
　この普遍性が、信玄公を時代を超えた存在として、人々の心に留めさせたのです。

　このように武田神社は、信玄公が実際に生活し、政治を行った場所であり、彼が残した功績と人柄を今に伝える、貴重な歴史遺産です。
　この場所を訪れることは、単なる観光ではありません。
　それは、信玄公がなぜ、500年もの時を超えて、今もなお多くの人々に敬愛され続けるのかを、肌で感じることができる、歴史との対話なのです。
　武田神社に足を踏み入れ、静かに佇む堀や土塁を眺めながら、信玄公がこの地で何を思い、いかにして国を治めたのか、思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

住所： 山梨県甲府市古府中町2611
公共交通機関でのアクセス： 電車とバスを組み合わせる方法が最も一般的で便利です。
〇 JR甲府駅からのアクセス： JR中央本線、JR身延線の甲府駅が最寄り駅となります。甲府駅の北口バス乗り場から、路線バスに乗車します。
　 武田神社行きバス：山梨交通のバスが運行しており、「武田神社」行きのバスに乗車し、終点で下車します。所要時間は約8分から10分です。
　 積翠寺行きバス：この路線も武田神社を経由します。「武田神社」バス停で下車してください。所要時間は同様に約8分から10分です。

〇車でのアクセス ：車で向かう場合は、中央自動車道の甲府昭和インターチェンジ（IC）を利用するのが一般的です。
　 甲府昭和ICからのルート ：インターチェンジを降りた後、甲府市街地方面へ進みます。国道20号線（甲府バイパス）を東へ進み、国道52号線（美術館通り）を北上します。そのまま道なりに進むと、武田神社に至ります。
　 駐車場 ：武田神社には、参拝者用の無料駐車場が複数あります。特に、神社の正面参道付近には大きな駐車場があり、観光シーズンでも比較的利用しやすいです。