武田信玄が長年にわたり覇権を争った信濃国(現在の長野県)には、彼の軍略や生涯を物語る重要な史跡が多く残っています。ここでは、特に重要な場所をいくつかご紹介します。

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海津城跡(松代城跡・長野市)信濃国

海津城跡(松代城跡・長野市)

 武田信玄の信濃支配の拠点であり、川中島の戦いにおける武田軍の最重要拠点であった海津城について、その歴史的背景、築城の意図、そして信玄との深い関係を詳しく解説します。

海津城:信玄の信濃支配と対上杉謙信の最前線
 長野市松代に位置する海津城は、武田信玄が信濃平定と上杉謙信への備えとして築いた、武田氏にとって最も重要な拠点の一つでした。
 この城は、千曲川と犀川が合流する広大な平野、川中島に築かれ、信濃支配の拠点であると同時に、宿敵・上杉謙信の越後軍と対峙する最前線の要塞でした。

築城の背景と戦略的意義
 海津城の築城は、信玄が信濃平定に乗り出した天文22年(1553年)頃に始まります。
 信玄は、上田城を拠点とする村上義清を打ち破り、信濃北部への勢力を拡大しました。
 しかし、越後を治める上杉謙信が、信濃の有力国衆からの援軍要請を受け、信濃への侵攻を本格化させました。
 信玄は、謙信の脅威に対抗するため、そして信濃を完全に支配するため、この地に城を築くことを決断しました。
 海津城は、以下の二つの重要な戦略的役割を担っていました。

  1. 信濃支配の拠点:
 海津城は、信濃北部の中心地であり、信玄がこの地を支配下に置くことで、信濃全域への影響力を強めることができました。
 2. 対上杉謙信の要塞:
 千曲川と犀川の合流地点という地理的優位性を活かし、謙信が越後から攻め入るのを防ぐ、最前線の砦となりました。

信玄の築城技術と人材活用術
 海津城は、信玄の優れた築城技術と、人材を活かす才能を今に伝える史跡です。
 1.優れた築城技術
 海津城は、平地に築かれた「平城」でありながら、堅固な防御力を備えていました。
 武田信玄は、この城の築城に際して、真田幸隆(さなだゆきたか)や山本勘助(やまもとかんすけ)といった優秀な家臣に設計を任せました。
 〇 縄張り(設計)の巧妙さ:
 信玄は、築城の専門家ではないにもかかわらず、自ら縄張りにも深く関わりました。
 彼は、堀や土塁を巧みに配置し、敵が攻めにくい構造を築き上げました。
 〇 「水の手」の重要性:
 海津城は、千曲川を天然の堀として利用し、水の手(城内の水源)を確保しました。
 これにより、長期の籠城戦にも耐えられる堅固な要塞となりました。
 これらの特徴は、信玄が軍事的な才能だけでなく、土木技術や建築学にも深い知識を持っていたことを示唆しています。

 2.有能な家臣への権限委譲
 信玄は、この重要な拠点の城代に、自身の信頼厚い家臣、高坂昌信(こうさかまさのぶ)を置きました。
 高坂昌信は、もともと身分が低かったにもかかわらず、信玄に見出され、その才能を存分に発揮しました。
 〇 高坂昌信への信頼:
 信玄は、高坂昌信を深く信頼し、この重要な任務を任せました。高坂昌信は、信玄の期待に応え、謙信の動向を常に監視し、川中島の最前線を守り抜きました。
 〇 人心掌握術の一端:
 この人事は、信玄の優れた人心掌握術を物語っています。
 彼は、家柄や血筋にとらわれず、有能な人材を適材適所に配置することで、組織全体の活力を高めました。
 高坂昌信の存在は、他の家臣にも「頑張れば評価される」という意欲を与え、武田軍全体の結束力強化に繋がりました。

川中島の戦いと海津城
 海津城は、川中島の戦いにおいて、武田軍の最重要拠点となりました。
 特に、永禄4年(1561年)の第四次川中島の戦いでは、信玄はここに本陣を置き、上杉謙信の軍勢と激しい攻防を繰り広げました。
 〇 奇策「啄木鳥戦法」の本拠地:
 信玄は、この城で「啄木鳥戦法」という奇策を練り、謙信の本陣を奇襲しようとしました。
 しかし、謙信はこれを見破り、逆に海津城から出てきた武田軍本隊に奇襲をかけました。
 〇 信玄の敗北と学び:
 信玄は、この戦いで大きな痛手を負いましたが、その後は謙信との直接対決を避け、外交や内政によって信濃の平定を進めました。

 海津城は、信玄が自らの軍略の限界を知り、新たな戦略に転換するきっかけとなった場所でもあります。
  現在、海津城跡は松代城跡として整備され、当時の堀や土塁が良好な状態で保存されています。
 この場所を訪れることは、信玄の信濃支配の歴史、彼の優れた築城技術、そして人材を活かす才能を肌で感じることができる貴重な体験となります。
 海津城は、武田信玄が戦の天才であると同時に、優れた戦略家であり、そして何よりも、人を信じ、人を活かすリーダーであったことを今に伝えています。

住所: 長野県長野市松代町松代44
公共交通機関でのアクセス :
 JR長野駅からバス JR長野駅善光寺口の3番バス乗り場から、アルピコ交通バス「松代高校行」に乗車します。
 約30分で「松代駅」バス停に到着後、そこから徒歩約5分です。
車でのアクセス:
 上信越自動車道長野ICから車 長野ICから約5分で到着します。
駐車場: 城跡の周辺には複数の無料駐車場があります。市営殿町観光駐車場や松代城北駐車場を利用すると便利です。