岩手県紫波郡



 父と母が花見に行き、弁当を食べようと休んでいると、母の腰元に桃が一つ転がってきた。
 それを拾って帰り、綿にくるんで寝床に置くと、桃が割れて子供が産まれた。
 桃ノ子太郎と名付けた。

 桃ノ子太郎は成長し、父母が畑に出た後で留守番をして勉強していた。
 すると、家の裏口の柿の木にカラスが飛んで来て、地獄から手紙を持ってきた、と鳴いた。
 その手紙は鬼からで、「日本一の黍団子を持ってきてくれろ」と書いてあった。
 桃ノ子太郎は父母に黍団子を拵こしらえてもらい、地獄へ旅立った。

 地獄の門を叩くと鬼どもが出てきて、「黍団子ひとつ、ごもっとも」と言う。
 一つずつやると、鬼はそれを食べて酔って寝てしまった。
 その間に桃ノ子太郎は地獄のお姫様を車に乗せ、急いで逃げ出した。
 鬼が目を覚まし、火の車で追ってくる。
 危うく追いつかれそうになったが、桃ノ子太郎たちの車が海の上に出たため、鬼はそれ以上追ってこれず、仕方なく引き返していった。鬼の火の車は、水の上は走れなかったのだ。

 桃ノ子太郎はお姫様を家に連れ帰った。このことがお上に聞こえ、金をもらって長者になり、安楽に暮らしたという。

『新・桃太郎の誕生 日本の「桃ノ子太郎」たち』 野村純一著 吉川弘文