大月の鬼にかかわる史跡の数々



鬼の石杖

 大月の桃太郎伝説によると、岩殿山の鬼は、桃太郎と戦ったとき、石杖(棍棒)を投げ飛ば鬼の石杖したのでした。
 このとき、石杖は2つに折れ、ひとつは「石動」の野原に突き刺さって「鬼の石杖」となり、もうひとつはもっと遠くの笹子峠近くの白野にまで飛んでいって「鬼の立石」(後述)になったと伝わります。
 なお、鬼が左手で投げたのが「鬼の石杖」、右手で投げたのが「鬼の立石」という説もあるようです)。

 どうやら桃太郎の果敢な姿に怒った鬼が左手に持っていた石の杖を猿橋の方向へ投げつけたものの、左手だったために猿橋まで届かず、途中の畑に落ちてしまったということでしょうか。だということは鬼って右利きだったようです。

 ちなみに、石動の斜めに傾く石杖の先には岩殿山があることから、突き刺さった状況から岩鬼の石杖殿山に住む鬼が投げた石杖であるとの話に信ぴょう性をもたせているようです。

 ちなみにここの地区は、杖が地面に突き刺さった時、石が動くほどの地響きがしたことから「石動」という地名が付いたそうです。

 また、石動の「鬼の石杖」とされる板状の石は人間の手で加工したような痕跡は見受けられず、自然石と思われるとか。
 なお、昔は高さが2メートル以上もあったが、市郷土資料館によると、「時期は定かではないが埋め立て工事の際、高さ2mあった鬼の杖に重機が当たり、折れてしまった」といいます。
 ちょっとあっけない話ではありますが、それにしても、なぜ板状の巨石がひとつだけポツンと地面に突き刺さるようにして置かれてあるのか、いったいどうやって置かれたのか、不思議です。

 いったい、この石はどのくらいの深さまで地面に突き刺さっているのでしょうか。
 かつて、鬼の石杖がどれくらい地中に埋まっているか調べようとした人がいたが、結局どれだけ掘り返してもわからなかったといいます。しかも、「その人はその後、病気になって亡くなった」――という話もあるらしい。鬼の祟りにあったということでしょうか。

 なお、この石杖をめぐってはこんな民話も残っています。
 「昔、岩殿山(同市)には赤鬼が住み、両手にはそれぞれ石杖を持っていた。ある日、九鬼山の青鬼が遊びにやってきて、石杖をどちらか高く投げられるか力自慢をしていた。落ちた時の振動は地震のようだったという。力自慢の勝負はつかず、今度はどちらがより深く地中に突き刺せるかを比べてみた。赤鬼は左手に持っていた杖を両手で力を込めて地中に突き刺したが、その間に青鬼は右の杖を笹子峠の方へ投げ飛ばした。怒った赤鬼は左の杖を引き抜こうとしたが、あまりに深く刺したため抜くことができず、素手で取っ組み合いをして双方とも死んでしまった。左の杖は「石動」に、投げた右の杖は笹子町のJR中央線の線路わきにあり「立石」と呼ばれているという(内藤恭義編著「郡内の民話」)。」

鬼の杖
大月市賑岡町強瀬1808